 |
 |
全員が共有できるシンプルな旗を立てる |
企画立案、コアメンバーの選定、スタッフのマネージメント、進行管理、営業や宣伝など関係各部門とのコンセンサス形成など、ゲームプロデューサーの役割は多岐に渡る。その中でも、最も大切なのは核となるコンセプト作りだ。
「1本のゲームがユーザーさんの手元に届くまでには、本当にたくさんの人が関ります。その皆が同じ強さで「これは面白いゲームなんだ」という想いを持ち続けられるかどうかにプロジェクトの成否が懸かっている。営業担当であればショップに商品を売り込みに行かなければならないし、宣伝担当なら「こんなに面白いんだから記事に載せて!」とメディアにアプローチしなければならない。そのために必要なのは、最初に絶対に変わらないシンプルなコンセプトを作ることです。どんなに状況が変わっても、スタッフがどんなに迷っても、あそこに行けばいいんだと分かる旗を立てること。それが企画段階でのプロデューサーの一番重要な役目だと思います。そして、一度旗を立てたら、最後まで倒れないように頑張ること。最初に思いついたコンセプトを信じ、何があっても粛々と進めていく。それが僕の仕事のやり方です」
しかし、メンバーすべての拠り所となる旗を立てるということは、ビジネスが成功しなかった場合、その責任を真っ先に負うということでもある。その重圧をどのように撥ね退けているのだろう?
「もちろん売れるという確信は持ってはいますが、開発中ずっとそう思い続けられるかというと、そんなことはありません。ゲーム業界に入って16年になりますが、今でも必ず途中で2、3度は「止めとけばよかった」と思います(笑)。商品がヒットするには、それこそ色々な要素が複雑に絡み合っていて、ある意味人の手ではどうにもならない部分もある。ゲームがよく出来ていたために売れる時もあるし、宣伝が良かったり、たまたま時流に乗って売れるとか……。プロデューサーは皆同じだと思うけど、発売直前は相当ビビッているはずです。100パーセントの自信を持って発売日を迎える人なんていないんじゃないかな。人事を尽くして天命を待つという感じですね」
 |
 |
ものづくりに便利な飛び道具などない |
皆で共通のゴールを目指すとはいっても、ゲーム開発に携わるのは、一癖も二癖もあるクリエイターたちだ。強い個性を持ったスタッフたちを1つの方向に導いていくのは、並大抵のことではない。渡辺氏もコミュニケーションの難しさに悩んだ時期もあった。
「昔作ったあるゲームの話ですが、プロジェクトのメーリングリストのメール数が1日に200〜300件にもなってしまったことがあったんです。それだけの数になると読むだけでも大変で、ちゃんとした返答などできない。結果、コミュニケーションロスが生まれ、皆の気分がイガイガしてきて、スタッフ同士の衝突も起こる。僕の役割は全体の利益からプロジェクトを俯瞰して発言することですが、個別のパートを受け持っている人たちにもこだわりや想いがある。絵を描く人であれば、絵を描くことに自分の人格を賭している。その意見を、よく分からない理由で反故にされたりすれば当然怒りますよね。いろいろ考えてはみたのですが、結論は丁寧に話すしかないな、と。便利な飛び道具なんかないんだなということを痛感しました」
スタッフに対する深い愛情。これこそが、渡辺氏を一流のプロデューサーたらしめている理由だと言えるだろう。そしてもう1つ彼を支えているものがある。それはゲームに対するピュアな想いだ。
「僕がゲームに目覚めたきっかけは、予備校生時代に入り浸っていたゲームセンターでハマッた対戦型ゲームでした。友達と一緒に1台のゲーム機を挟んで競い合うのがとにかく面白くて、台の上に100円玉を山積みにして夢中で遊んでいました。あの時の感覚が僕の根っこになっているんだと思います。ゲームには大きく分けて2つの流れがあります。1つは『ファイナルファンタジー(FF)』や『ドラゴンクエスト(ドラクエ)』のようにコンテンツを楽しませるもの。もう1つは、対戦ゲームやボードゲームのように、人が遊ぶためのツールとしてのゲームです。僕は、どちらかというと後者の方が好きなんですね。ゲームを媒介にしたコミュニケーションと言ってもいいかもしれない。僕らが普段何気なく行っている会話の中にゲームを差し挟むことによって、新しいコミュニケーションのかたちが生まれる。そんなゲームを作りたいと思っています」
|
転職を考えている皆さんへ
自分が何の職業に向いているかなんて、本当は誰にも分からないと思います。どんな仕事でも自分に向いている部分もあり、向いていない部分もある。僕も向いてない部分があるからトラブルも起こるし、逆に向いている部分があるからここまで続けてこられたと思う。100パーセント向いている天職なんて、まずあり得ない。だから、転職するなら、自分の良い部分が生かせる職業かどうかという視点で考えてみるといいんじゃないでしょうか。
|
|
|